2015年12月23日夜21時よりNHK BS1にて放送されたドキュメント番組「もうひとつのショパンコンクール」。 私が以前、音楽事務所に務めていた頃にお世話になった調律師の方も出ていらしてとても感慨深いものでしたが、今回はこの放送を元に「FAZIOLI(ファツィオリ)」と「KAWAI」の2つのピアノメーカーについて、それぞれの魅力やメリット・デメリットを探っていきたいと思います。
ショパンコンクールで選択者が少なかった2大ピアノ
今回の放送は、ショパン国際ピアノコンクール2015にといて選択者が少数派となったFAZIOLIとKAWAIの特集がメインで、これら2つのメーカーの魅力を知る事が出来る内容となっていました。私もFAZIOLIの情報が少ない中、現地ワルシャワでその音が聴けるものだと心待ちにしていましたが、3次予選およびFinaleでは残念ながらその選択者がおらず、その音を生で聴く事は適いませんでした。
それにしても、放送では晴れて穏やかなワルシャワの映像が映っていましたが、私が訪れた3次予選~Winners Concertのコンクール後半は、殆どが雨や曇天続きで憂鬱でした…。悪天候で大した観光も出来ず、殆どがホテルの自室やレストラン、カフェで過ごす滞在となってしまいましたが、その分ショパンコンクールに打ち込めたと思って、自らを宥める様にしています。
唯一の選択者Tina Luが引き出したFAZIOLIの魅力とは?
FAZIOLIの調律師は、ショパンらしい柔らかな音を目指した整音を施したそうですが、“良く鳴る”ピアノを選ぶコンテスタントに圧倒されて、それが裏目に出てしまったとの事でした。放送では、試奏会の途中から内部のハンマーアクションを“鳴る”仕様のものへ変更していましたが、それを選択したTian Luさんは、どの様な演奏だったのか、映像を見てみましょう。
強靭なメカニックで安定感があり、カリスマ性を覗かせます。肝心のピアノの音質については、低音が異様に大きく響いて聴こえるのですが、これには音を拾うマイクに原因があるのかどうか、定かではありません。しかし明らかに他のメーカーとは音質が異なっている事が分かります。
コンクールにおいて「異質」というのは、よい意味でも悪い意味でも注目される“諸刃のづるき”の様なもので、その点Tian Luさんの演奏は審査員から大きな注目を浴びていたに違いないでしょう。ただ、彼女が演奏する直前まで9名連続で2次予選進出を果たしている事から、いきなり現われた“ソフト”な音は、ある意味「膜」の張った不透明な音という様に捉えられてしまったのかもしれませんね。FAZIOLIへの理解がまだまだ浸透していない中、老舗メーカーとの戦いはなかなか厳しいものなのかもしれません。
“カワイ・トーン”の魅力
放送の中で、「KAWAIはガラスの様な音」と話していた演奏者がいました。彼はそんなKAWAIを敬遠していましたが、今回のコンクールの中でKAWAIを選択したコンテスタントの演奏を聴くと、Shigeru Kawaiを弾きこなしている人とそうでない人との違いがハッキリと表れていたと感じました。
放送で注目されていたGalina Chistiakovaさんは、Finaleこそ進めなかったものの、KAWAIの特徴である“明るい響き”の音を上手く利用した音づくりで、この楽器を良く弾きこなしていた一人であると感じました。
これが弾きこなせていない人の演奏は、音の残響が歪んで聴こえる「通称“KAWAI割れ”」を引き起こして、それこそガラスが割れた様な印象を受ける事があります。今回のコンクールでも、KAWAIを選択したコンテスタントの内半数近くは、このひび割れた残響が聴こえてきました。
つまり、それだけShigeru Kawaiの楽器は、難しい楽器なのでしょう。だからこそ、Galina Chistiakovaさんの演奏をはじめ、この楽器を真に弾きこなした暁には、何とも透明で神秘的、人知を超えた音が出てくるのだと思います。いずれ、この先KAWAIの選択者がタイトルを獲得する日も訪れるのだと思いますが、その時は想像もつかない様な音、多彩な魅力に溢れた演奏を聴く事が出来るのではないでしょうか。個人的にはBösendorferにも復活してもらいたいという思いがあります。付加鍵盤が成す低音の魅力は、他のメーカーには決して真似できない、大きな存在意義であると思います。それがショパンの音に相応しいかどうかは、演奏者が証明してくれるのではないでしょうか。
あぁ、私も一度でいいからコンサートホールでFAZIOLIを弾いてみたい!!
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