「月間ショパン」「サラサーテ」「モーストリー・クラシック」3誌の最新号から読み解く“ショパン国際ピアノコンクール2015”(後編)

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(前編)からの続きです。

Charles Richard-Hamelinさんへの賞賛

早くから注目されていたSeong-Jin Choさんとは対照的に、つい2年程前まで目立ったコンクール受賞暦が無かったCharles Richard-Hamelinさんへの注目は、今回のショパンコンクールの結果を受けて一気に高まるのではないでしょうか。

“サラサーテ”に掲載のDang Thai Son氏のコメントには、「Charles Richard-Hamelinは今回のコンクールにおける偉大な発見だった」とありますし、Martha Argerich氏も「音楽の温かさが印象的で素晴らしいピアニスト」と賞賛しています。

 

この寸分の狂いも無い音のコントロールには、どの紙面からも絶賛されていますね。まるで鍵盤の上で何かを自在に操って転がしているかの様な印象を受けます。全ての音に意味があって、それが絶妙な曲線で結ばれている、まさに“洗練”が頂点に達した演奏であると言えるでしょう。

また、各誌および各審査員が揃って、彼の音は「優しい」だとか「温かい音楽性」などと賞賛している様に、彼の音は弾き始めの第一音から特別な魅力に包まれています。ピアノは「力」で弾くと、堅く響きの無い耳障りな音が出てしまいがちですが、彼の演奏からは一瞬たりともその様な“雑味”が聴こえず、ふくよかな響きの部分だけが抽出され、打鍵の程よいアクセントに支えられながら聴衆の耳に届きます。私が彼の演奏を特に好きになったのは、この音質の魅力が理由でもあります。

敗因は協奏曲か?

Charles Richard-Hamelinさんは、Finaleで唯一「協奏曲第2番」を演奏しました。(前編)で記載した様に、今回のFinaleステージではオーケストラの演奏に酷評が相次いでいる為、この2番を弾いた事が彼の敗因であるという意見はあまり見受けられません。

しかし、過去の優勝者に「2番」選択者が殆どいない事が物語っている様に、この曲は得点の取り難い作品だと考えています。例えば1楽章は「1番」に比べると捉え所が分かり難く腑に落ちないポイントが多いですし、3楽章はただひたすらアルペッジョを繰り返すだけで、総じて表現可能な域が限られている様な気がします。

 

その為か、彼の演奏を聴いていても、3次予選までの様な自由さはあまり感じられず、特に3楽章は“ただ綺麗な音が鳴っているだけ”という印象を受けた部分が大半で、主張の弱さが印象に残ってしまった感じがしました。

彼は、自ら好んで「2番」を演奏したと語っていますので、それで良かったのかもしれませんが、彼は2次予選や3次予選で審査員全員に「Yes」をつけさせた唯一のコンテスタントでありますから、実に“勿体無い”というのが大方の感想ではないでしょうか。Dang Thai Son氏も同じ様な事を語っていました。

1位と2位の差は何なのか?

この2名について圧倒的に差がある事といえばプロフィール、もとい過去の受賞暦ではないでしょうか。Seong-Jin Choさんが2009年から浜松国際優勝や、その後のチャイコフスキー3位、また数々のオーケストラとの共演等、華々しい活躍がある一方で、Charles Richard-Hamelinさんが国際コンクールで初タイトルを取ったのは昨年のモントリオール第2位が初。しかも普段の活躍の場は室内楽が主だと言いますから、オーケストラとの共演の経験もSeong-Jinさんに比べると稀薄ですし、多くの審査員の注目の的から外れていた事は間違い無いでしょう。

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Charles Richard-Hamelinさんの協奏曲が振るわなかった事を鑑みると、1位と2位の差はFinaleで付いたと考えるのが自然ですが、(前編)で記載した通りSeong-Jin Choさんの演奏は、とにかく音が鳴っていなかった印象ですし、それがオケのせいだとしても、決してタイトルを勝ち得る様な演奏ではなかったと改めて思います。

Finaleの演奏に限った評価ではない事と加味しても、彼の演奏は1次予選から“上手な芸大生レベル”の印象でしたから、コンクールの演奏だけを評価するならば、尚更アムランさんが優勝でしょう。

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となれば、評価に疑問の目が向けられるとすれば、やはりSeong-Jin Choさんという事になります。彼の過去の華々しい功績を知らずして、果たして同じ結果になったかどうか…。コンクールの審査に過去の受賞暦が先入観として働いていないという保障は、果たしてあるのでしょうか?芸術の評価であるが故、その真相が立証される恐れが無いからこそ、審査員も言いたい放題なのではないでしょうか?

また、評価の優越に限らず、Seong-Jin Choさんは注目を浴びている期間が長い分、審査員側も彼の音楽を沢山聴いている事から、彼の音楽を評価の“基準”として捉えてしまっている者も、少なくないのではないかと思います。

最後に

様々なものがIT化され、数値化され、デジタル化された現代においても、芸術の評価というものは未だ“人の感覚”という曖昧なものでしかありません。だからこそ、評価に対する透明性というものが重視される訳ですが、審査員の点数は公開されるものの、今回の様な審査傾向が今後も続く様であれば、「くだらない」といってコンクールに対する熱も冷めてしまう人も出てくるのではないでしょうか?

Finaleの審査だというのに3次予選までの評価を顧みたり、ショパンコンクールの審査だというのに過去の受賞暦を顧みたり…。そんなのでは、1年も前から準備をするコンテスタントや、大金を叩いてワルシャワを訪れる音楽ファンはシラケてしまうでしょう。「それならば書類審査だけで賞を決めれば良い」と声を上げたくなります。

散々な事を書きましたが、それでもWinner’s ConcertでSeong-Jin Choさんの実力が本物である事が明らかになった以上、彼に注目しない訳にはゆきません。Charles Richard-Hamelinさんと共に、今後とも注目して行きたいと思います。

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