最近「アナログレコード」の人気急上昇が話題になっていますね。アナログなんて、それこそ私の親世代の産物だと思っていましたので、ブームのニュースを聞いた時には驚きました。
それこそ「モモクロ」や「福山雅治」、「中島みゆき」といった現代のアーティスト達が、続々とアナログ版をリリースしており、しかも通常のCDよりも割高で出されていますから、相当ブームが来ている事が伺えます。
しかし、これを単なるアンティークブームの一種として判断するのは間違いだと思います。【Jpopの再現芸術化について】の記事でも述べましたが、現代のJpopは既に「再現芸術」の域へと入って来ている事もあって、皆新たなトレンドを模索している時期でもありますから、アナログ版のブームは新たな時代の始まりを示唆しているのかもしれません。
音楽を五感で楽しむジャケット文化
CDやレコードのジャケットを手に取ると、その質感や色味、印刷インクの匂いなど、そういった色々な要素も含めて、そのCDやレコードの印象となって思い出に刻まれていきますよね。ダウンロード配信で育って来た10代の若い人達は、この様な経験は少ないのではないでしょうか?
アナログレコードを手にとって、それをプレーヤーに乗せて針を落とす、この一連の動作が新鮮に感じる人も、少なくないのかもしれませんね。
電子音の“キツイ”音に嫌気
近年のJpopで多く使用されているMIDI音源は、流石に音楽的な面で心地よく聴こえる様な工夫が施されているとは思いますが、それでもコンピューター音源である事に変わりはなく、アコースティック楽器での演奏に比べて早々に耳が疲れてしまいます。
普段からクラブミュージックなどで電子音源に浸っている若者は、ナチュラルなアナログ音源に温かみを感じ易いのかもしれません。
一方、私の様なクラシック音楽主体で育ってきた人間にとっては、普段から電子音にあまり耐性が無いものの、柔らかいアコースティック音ばかり聴いている為、CDの様なデジタル出力でもあまり疲れは出てきません。
反対に、アナログ音源のクラシック音楽を聴くと、録音状態によってはもっとクリアな音やパンチの利いたアタック音が欲しいと思う事があるくらいです。つまり、演奏某帯から出力に至るまで、デジタルとアナログ両方の“いいとこ取り”が理想なのかもしれませんね。
音楽配信の圧縮音源に嫌気
音楽配信サイトから曲をダウンロードする場合、多くの場合MP3やAACといった圧縮音源となってしまい、CDと比べて劣化する音質に、私は嫌気が差しています。ビットレートの低い音源は、ドット数の少ない画像と同じです。圧縮音源をスピーカーの様な高出力で聴くと、木目の粗い画像を拡大して見るのと同様に、非常に荒れた音で耳障り、長く聴いていると気持ち悪くなってきます。一般消費者に対する通信速度の都合上、WAVの営業配信は難しいのだと思いますが、ただでさえ波長の鋭いコンピューター音源主体の音楽が、圧縮によって更に荒れた音質になり、耳に突き刺さる様な感覚さえ覚えます。
この様に、以前はCDとして当たり前に聴けていた音質が提供されなくなった事も、デジタル音楽配信に陰りが見えてきた一つの要因であると思っています。
アナログレコードの台頭は、時代が逆戻りしたのではなく、技術革新がユーザーのニーズに追いつかなかった事の表れであって、結局は人間の感情に働きかける「芸術」分野において、合理的なデジタル音楽は一つの限界点を迎えたのかもしれませんね。
しかしこれは良い傾向だと思います。あのまま“デジタルの要塞”が根付いてしまったら、コスパの悪いアコースティック産業は完全に潰れてしまった事でしょう。アナログレコードの台頭は、素直に歓迎したいと思います。
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