ピアニスト中村紘子氏死去、その演奏と性格に思うこと

衝撃のニュースが飛び込んで来ました。ピアニストの中村紘子氏が7月26日に死去されたとの事。

日本のピアノ界を代表する人物として長年活躍された中村氏。晩年は病に侵されながらも精力的な活動をされていた矢先、まだ72歳という早すぎる死去は非常に残念です。先ずはご冥福をお祈り致します。

日本を代表するピアニスト

彼女の名は誰もが知る日本を代表する巨匠で、“日本人ピアニスト=中村紘子”と称されるほど、日本の象徴としての存在でもあったと思います。

ショパン国際ピアノコンクール2015

その功績は言わずもがな、1965年のショパン国際ピアノコンクールでの入賞やマイコン、日本音楽コンクールでの優勝、加えてショパン国際ピアノコンクールでは1990年から2005年まで審査員を務められた他、チャイコフスキー国際コンクールや浜松国際ピアノコンクールでの審査員など、その多岐にわたるご活躍は数え切れないほど。

日本や世界のピアノ業界に大きな影響を与えた人物であったと思います。

賛否両論の演奏

中村氏の演奏に対しては多くの所で賞賛される一方、特に後年になってからの独特な解釈に否定的な声も多く聞かれていましたね。

中村紘子氏死去

私が彼女の生演奏を初めて聴いたのは、確か30周年記念コンサートの時であったと記憶しています。当時はまだ“演奏論”について語れる程ではありませんでしたが、その洗練された演奏に心打たれた事を覚えています。確かこの時はアンコールを4回(正確には覚えていませんが)くらい演奏されて聴衆を沸かせていました。

中村紘子氏

しかし、ここ10年くらいの演奏を聴いていると、なんだか固い岩をハンマーで叩いているかの様な印象を受けた事もあり、これが日本の象徴の音なのか?と疑問に思った事もありました。

大方のピアニストは晩年になると、技術の衰えと引き換えに何とも言えないほど柔らかく熟した音を出すものですが、中村氏はちょっと別の方向へ進んでしまった様に感じています。

現場で見せる気難しさ

私は“ピアニスト中村紘子”という人物を、マネージメントの立場から見た事があります。

私が音楽事務所に勤めていた頃、中村氏を含む数名のピアニストがピアノ協奏曲を演奏するというガラコンサートのリハーサル中の出来事なのですが、オーケストラと合わせている時、自身の演奏にオケや指揮者が合わせてくれないという理由でご立腹、リハーサル途中で帰られてしまう事がありました。

リハーサル

我々スタッフは、中村氏の所属事務所のマネージャーの方から中村氏の気難しさは事前に伺っていたので、中村氏の楽屋の選定やステージまでの導線など、ありとあらゆる準備を万全にしてリハーサルに臨んでいたのですが、結局リハーサルを無事に終える事は叶いませんでした。

もちろん、翌日の本番は何事も無く終えられましたが、世界の巨匠を扱う難しさを痛感した演奏会でもありました。

音楽業界に対する警鐘

晩年の腑に落ちない演奏や難しい性格の一方で、中村氏の音楽業界に対する的を得た評論については、賛同できる部分が多くありました。例えば、中村氏はYou-Tube等のインターネット配信の音源に対しては否定的な考えをお持ちの様で、「You-Tubeって参考に聴く為だけのものでしょ?」という発言は有名ですよね。

圧縮音源による音楽配信が主流になってしまった現代の音楽業界に対して警鐘を鳴らすこの発言については私も賛同する所がありますし、これからも発信し続けて欲しいと思っていただけに、今回の早すぎる死去は大変残念でなりません。

改めてご冥福をお祈り致します。
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