最難関のショパン・エチュード!ゴドフスキーの【超絶技巧】アレンジに触れる。

「ショパン・エチュード」と言えば、ピアノ学習者の中でも上級者に向けた練習曲集で、美しい音色を持ちながらも、指の筋力トレーニングや運指のテクニックを身につける為の重要なピアノ作品集として、世界中で知られている事と思います。

今回は、そんな上級者向けのショパンエチュードを更に難しく、超絶技巧に仕立て上げられた「ショパンのエチュードによる練習曲」にスポットを当てたいと思います。

ゴドフスキー編曲のショパンエチュード

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この編曲集は、かの有名なLeopold Godowsky(1870-1938)によるもので、24曲あるショパンエチュードを、各々1曲につき1~複数のパターンへ編曲されていて、そのどれもが演奏者泣かせの超絶技巧を要するもので知られていますね。それ故、巷で演奏される事は殆ど無く、楽譜すらロクに見たことが無い方もいらっしゃるのではないでしょうか?

この曲集が収録されている楽譜に関して、つい最近までMillan Sachania編のものしかなく、8,000円以上もする高価な楽譜を購入するしか方法はありませんでした。しかし最近では上下巻に分かれた日本語版が出版されているので、以前より手軽に手に入る様になりました。

尚、つい最近まで“IMSLP”で無料公開もされていたのですが、今拝見した所、見当たらなくなっていました。死後70年経過しているのだから、そういう面は寛容になっても良いのではないかと思いますが…。

ゴドフスキーセレクト

とは言え、その他の作品に関しては今でも無料で見る事ができます。こうして見ると、ゴドフスキーのピアノ作品はそれなりに数が揃っていますが、彼が世に残した作・編曲作品はどれも高い難度を誇るものが多く、それ故これまであまり演奏されて来なかった事、そして書いた本人も「ヴィルトゥオーソだった」という記録が殆ど残っていない事から、演奏可否の信憑性すら疑われた事もあったそうです。

超絶技巧の演奏を聴いてみる

さて、そんな訳もあってこの超絶技巧練習曲の演奏を聴く手段は限られており、Wikipediaによると、この「ゴドフスキー練習曲」の全曲録音を行った者は、これまで僅か3人しかいないのだそう。

Leopold Godowsky (1)

私が持っているのは、その内の一人Marc-André HamelinのCD。聴いてみると、聴きなれたショパンエチュードが更に華やかな装飾を得て、煌びやかに演奏されているのが分かります。しかしあまりにも“簡単”に弾きこなしているので、果たしてそんなに難しい曲なのか、疑ってしまいます。

Leopold Godowsky (3)

ただ、楽譜を見るとこの様に真っ黒!きちんと指番号を定めて徹底的にさらっても弾けるようになるかどうか…。譜読みするだけでも大変そうです。これをいざ「in Tempo」で弾くとなると、指先から手首、肘にかけて、無駄な動きが一切無い様に、繰り返し訓練しなければなりませんね。100回さらっても200回さらっても足りない気がします。

上記の楽譜はOp.10-5「黒鍵」ですが、原曲のどの部分か分かりますか?

Chopin 10-5

正解はここ、再現部のテーマから終結部に向かうアプローチ部分ですが、原曲は速いパッセージながらもモチーフのまとまりが一目瞭然で分かり易く、特に右手は定位置で留まっているだけなので、脱力がしっかりできればそれほど難しい所ではないと思います。

しかしゴドフスキーの編曲では、細かい動きな上に大きな跳躍があり、特に1拍目と3拍目の左手は「1・5」の指で7度の和音を弾いた直後にオクターブ上の音を弾く必要がある等、これをあの速いテンポでこなさなければならないとなると、まさに神業が必要ですね。

またゴドフスキーの楽譜は、上段下段共に音符の「旗」がそれぞれ上下に付いているのが確認できます。つまり弾く音は一つですが、それぞれ2つの声部を意識しながら弾く必要があるという事です。ここまで演奏者への要求が多いと、現代作曲家なんかは怒られてしまいますよ。


さて、ここまでゴドフスキーの超絶技巧アレンジに触れてきましたが、彼の凄い所は、この様なバリエーションが幾つも存在するという事です。その“最多”となる、上記「黒鍵エチュード」について、原曲との違いを細かく見ていきたいと思いますが、長くなりましたので次回に続きます→ゴドフスキーの超絶技巧アレンジ!バリエーションに富んだ【黒鍵エチュード】を比較