「音大卒」の戦い方‐を強いられる犠牲者にならない為の助言②〔IT社会における音楽活動と音大卒の意義〕

前回の①に引き続き、書籍“「音大卒」の戦い方”の内容を元にして、音大への進学の必要性について考えていきたいと思います。今回は、現代社会において音楽ビジネスをするにあたり、音大を卒業する事は本当に必要な事なのか?その辺りをスポットに話を進めていきます。

20代までで辞める人が多い現状

音大卒は武器になるは本当か(その3)】の記事の中では、管楽器などのオーケストラ楽器専攻の人はピアノ専攻の人に比べて音大進学への意義が格段に上がるという旨を述べましたが、例え管楽器専攻や作曲科専攻の人が音大で良好な人間関係を築けたとしても、ずば抜けた実力が無ければ卒業後数年で干されるだけです。20代の内に楽器を辞める人がどれだけ多い事か…。

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私は仕事関連で音楽家の集まる飲み会へ参加する事もあるのですが、数十人集まる様な会合でも、そこにいるのは殆どが20代の人。30代以降の人は殆ど見かけず、居るとすれば大概、全日本吹奏楽コンクールの課題曲に選ばれた様なちょっと有名な人で、その人に憧れを抱いている学生上がりの若者達が集っているだけの催しである事が殆どです。

つまりそれだけ30代以降まで音楽を続けられている人が少ないという事、そして続けられている人の多くはごく一部の限られたエリートか、家柄の関係で稼ぐ必要に迫られていない人であるという事。音大卒の人が自らの専門分野で稼げている事例は、想像以上に少ないのです。

音楽を稼ぎの手段に出来ない現代社会

今、IT技術の発達したグローバル経済の中、J-popの定額配信やらで音楽の価値が著しく下がっていますよね。若者が音楽を聴くツールの第一位がYouTubeだというデータもあるそうで、音楽は無料で手に入るというのが定着してきています。

また、世に溢れる音楽の多くがMIDI等によるコンピューター音源を用いた軽音楽。電子音のビートに効果音を付けたものを伴奏としてラップ歌手が歌っているだけのもの等、楽器の演奏家はおろか作曲家すら必要としないファストミュージックが大量生産されているのが現状です。

そんな中、一般的な大学の2倍もの学費を払って音大へ進学する意味がどこにあるのかと、疑問の念を抱かざるを得ません。現状、音大を卒業した殆どの人が音楽で金を生み出す事が出来ず、他の手段で生み出した金を使って音楽を続けているという本末転倒な状態の人も多く見られます。金の為に音楽は出来ず、金を消費してでしか音楽をする事が出来ない現代社会は、音大進学を勧めてくる老年世代の人達が過ごした時代とは全く違うのです。

音楽活動は音大へ行かずとも出来る

音楽活動をする上で“○○音大卒”の肩書きに効力があったのは10数年前まで。今や東京藝大卒ですら“ちょっとした変わり者”で済まされてしまう様な時代、高い学費を支払って私立音大へ行く必要はますます薄れているでしょう。

しかし上記の通りYouTube等の影響によって音楽の価値が低下している一方、逆に自分の音楽を世界に向けて手軽に発信できる良い時代です。録音した音源にリバーブを入れるなどPCの無料ソフトを使って簡単に編集する事も出来ますし、一昔前は専門業者でしか出来なかった技術が今では個人のレベルで簡単に行う事が出来てしまいます。

Finaleの実力!

我々作曲家も、出版社に向けて営業するよりも自分で作成してWebで配信する方が効率的ですし、何より早く稼ぐ事が出来ます。私自身も大手出版社から出している作品はありますが、Finale等のソフトを使えばそんな大手と遜色無い綺麗な楽譜が書けますし、作成した楽譜のPDFデータは経費ゼロで無限複製できる点も優れています。

老年世代の助言を受けていると、どうしても“こうあるべき”という固定観念を押し付けられがちで、この様なWebを使った音楽活動に抵抗のある方も未だ多くいる様ですが、古くからあった音楽市場はIT技術によって奪われた訳ですから、それを取り戻すにはこちらから積極的にIT社会に入って行く必要があるのではないでしょうか?私を含む多くの音楽家は、発想の転換が必要だと感じています。

それでも音大へ行きますか?

以前にも述べましたが、高校生の時点でずば抜けた演奏技術、或いは輝かしいコンクール受賞暦を幾つも持ち、音大へ進学してエリート街道を進む絶対的な自信をお持ちの方は、是非とも音大へ進学すべきです。

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名声が欲しい大学は、そんなエリート学生を喉から手が出る程欲しがっていますから、大学の莫大な資本でもって更なる実力を身につけさせてくれる事でしょうし、“個人”の力では決して及ばない巨大組織ならではの充実したサービスを存分に受ける事が出来ると思います。

しかしそれにかかる莫大な費用の一旦を担うだけの“その他大勢”の一員になる事だけは、何が何でも避けるべきです。上記の通り、現代社会における音楽ビジネスを行う上で“肩書き”は多くの場合無意味ですし、趣味で音楽を続けるならば、個人的に優秀な先生に師事したり、音楽関連書物を読み漁る方が効果的です。

「音大卒」の戦い方‐を強いられる犠牲者にならない為の助言

以上、2回に渡ってお伝えして来ましたが、如何でしたでしょうか?音大への進学を検討されている方は、是非とも数年後に訪れるビジネスを考えた上で、もう一度よく検討される事をおススメします。

“「音大卒」の戦い方”および“「音大卒」は武器になる”の2つの書籍、および下記の記事も併せてご覧頂ければと思います。

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