“「音大卒」は武器になる”は本当か?(その2)費用対効果を考える

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(その1)では、ピアノ科の厳しい実情として、藝大卒や首席卒でなければ演奏家として食べて行く事は難しい旨をお話しました。

では、一部のエリート達に学費を献上してしまった、その他大勢の卒業生(私も含まれます)は全く食べて行けないのかというと、そんな事はありません。ただ、音大進学を「自己投資」として考えた時の費用対効果は、ものすごく悪いと言わざるを得ず、その投資額を十分に回収できる可能性があるのは、これまた一部の限られた職に就く事が条件であると考えています。

今回はその辺りの話をしていきたいと思います。

「音大卒」は武器になる
大内 孝夫
ヤマハミュージックメディア
2015-01-22

王道は「教員」。それ以外はアルバイト並

ピアノ科を卒業した人の多くは、次の進路に進んでいます。安定収入に繋がる可能性が高いのは、多くの場合「先生」になる事です。

  • 小・中・高校の音楽の専任教員、または非常勤講師

所謂「学校の音楽の先生」で、この専任教員になった人の多くが家庭を持っています。公務員ですから、それだけ高額で安定的な収入を得られるのだと思います。勿論、演奏活動をする暇は殆どありません。非常勤講師は時給換算するとバイトより良いですが、基本的に1年契約で不安定です。「講師登録」をして臨時採用となった場合でも2500円程度の時給は貰えますが、“産休の代行で3ヶ月間”等の短期となる場合が多いです。

  • 個人で音楽教室を開校・運営・指導

収入は生徒数に比例します。自宅を音楽教室とする場合が殆で、生徒数はその立地に大きく左右されます。東京都心や横浜界隈の住宅街では大盛況である場合が多く、郊外や地方では車を操り「出張レッスン」という形態を取る方も見受けられますが、移動時間や渋滞リスクによってスケジュールのやり繰りに苦労するそうです。

  • フリーで演奏・指導(ピアノの伴奏、個人指導、楽器店や大手音楽教室の講師)

アルバイターと同程度の収入である場合が多い様です。大手音楽教室等ではマージンを取られる為、時給換算でも「1000円強」となります。

  • 音楽関連(または関連外)企業の一般事務職

音楽大学ではない一般教養大学生と同じように、就職活動に勝ち進んで成り得るパターンですが、演奏活動はかなり限られるでしょう。中堅以上の企業に入社できれば安定収入を得られますが、音大卒の意義はかなり薄れる様な気がします。

教職免許取得も、需要は先細り

音大の多くには「中学・高校教員免許(音楽)」の取得が出来るカリキュラムが備わっていて、多くの学生が履修します。その結果、毎年全国で数百名もの「音楽の先生」が誕生します。上記の通り、公務員として音楽の専任教員になる事が出来れば、音大卒業生の就職先の中でもトップクラスの安定収入を得られるのですが、近年「脱ゆとり教育」の元、義務教育における副教科の選択制への移行が現実味を帯びてくる中、音楽の教員採用は徐々に狭き門へと変わりつつある様です。

世間から求められる能力とは

大学のカリキュラムを必至にこなし、それなりに優秀な成績を収めたとしても、世間の需要に応え得る演奏の力はなかなか身につきません。例えば大勢が集う場所で「ちょっと何か弾いてみて」と頼まれた時、多くのピアノ科出身者は、今練習している作品を美しく完璧に演奏して魅せるでしょう。

しかし、限られた練習時間でこなせる作品はせいぜい数曲程度、あらゆる作品をジュークボックスの様に瞬時に引き出して演奏できる人はごくごく少数でしょうが、世間が求めるのはこういった才能です。

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また邦楽、洋楽、ドラマや映画のBGM、CM曲など、世間の流行りの曲のリクエストに応えて瞬時に即興したり、カラオケボックスの様にキーを瞬時に変えて伴奏する等、便利屋の力が求められますが、演奏専門の学科でこれらが完璧に身につくカリキュラムの大学は、なかなか無いのではないでしょうか。

私は作曲家として活動しているくらいですから、メロディが有ればそれに即興で簡単な伴奏をつけて弾く事くらいは可能です。しかしこれは幼い頃から徐々に習得してきたもので、音大で培った能力ではありません。

経営上の都合

世間の需要に応えうる上記の様な力を、大学4年間で身につけるには、相当厳しいカリキュラムが必要でしょう。しかしそれでは多くの人が卒業できず、入学も狭き門となり、学費の回収もまばならない…。そこで、入学から卒業までベルトコンベアーに乗せるだけの一般大衆を募った上で、一部の優秀な人材の育成に財を集中させる、というのが大学側の経営方針の様な気がします。

(その1)にも書きましたが「その他大勢」の一員になるくらいならば、優秀な先生に個人的に就いた方が演奏能力は身につきますし、和声やソルフェージュ能力は作曲の先生に、また西洋音楽史等の知識は多くの著書を読み漁る方が、よほど身につくのではないでしょうか。

 (その3)へ続きます。

関連記事:「音大卒」の戦い方を強いられる犠牲者にならない為の助言

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