羽田空港の“都心上空ルート”を千葉県の騒音実状から検証する

2010年10月にD滑走路運用が開始と同時に再国際化された羽田空港、それ以来、段階的にその発着回数が増えてきました。そして“2020東京オリンピック”をスローガンに、発着回数の更なる増加を見込んだ「都心上空ルート」が、いよいよ現実の物になろうとしています。2015年の7月から、当ルート下の各所で「説明会」が開催されていますが、所詮「お国」が喋る“説明”ですから、過小な被害想定の元、泣く泣く納得させられている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、現在羽田空港の騒音のメッカになっている“千葉県”の現状を精査し、都心上空ルート下の住まいの方々へどの程度の被害が想定されるか、考えていきたいと思います。

年間想定運用率は守られない

現在、羽田空港には4つの運用ルートがあります。

  • 北風好天(富津沖海上ルート)年間運用25%
  • 北風好天時以外 年間運用35%
  • 南風好天 年間運用37%
  • 南風悪天 年間運用3%

この内、南風運用時の着陸便が、千葉県に大きな騒音被害を齎しています。

羽田空港 南風 運用

特に夏季(4月~9月)は南風運用である事が殆どで、年間40%という数字の信憑性を疑い兼ねません。それもそのはず、千葉県の調査では、平成25年度の南風悪天運用は5.7%、逆に千葉県がもっとも静かな富津沖海上ルートも20%と、それぞれ当初の想定より大幅に悪化しており、いかに“お国”が定める「想定」が政治家の発言レベルである事を物語っています。

ニアミスは日常茶飯事? 3分間隔の危険なクロス

南風運用時の着陸便は、その北ルートと南ルートが千葉県内の市街地上空で交差します。これは南方からの着陸便を北側にあるB滑走路に着陸させる為で、そうしないと圧倒的便数を誇る南方からの着陸便が、南へ向かって飛び立つ離陸便の航路を塞いでしまうからです。

危険な交差は、南風好天時には2250mと1850m、南風悪天時には1650mと1250m。実に僅か数百メートル差の交差が、千葉県の上空で日常的に行われています。

想定ルートはかなり外れる

国土交通省から発表されている航路想定ライン上から数キロ以内は、騒音被害の可能性があります。

千葉県の例を見ますと、最も高度が低く騒音の大きい南風悪天時の北ルート着陸便は、本来ならば東葛飾地区の人口密集地を避けて利根川を南下するはずが、実際はその多くがR16に沿って南下するルートで飛行し、柏市や我孫子市の住宅密集地に騒音被害を齎しています。

羽田空港騒音 千葉

当局は「天候によって誤差が生じる」としていますが、このR16ルートが常態化している所を見ると、“燃費優先のショートカット”が住民の健康よりも重視されている証拠でしょう。

運用時間を過ぎての騒音実績

深夜の海上ルート(23時~6時)への切り替わりも、スムーズに成されない場合があります。

千葉県市川市が国土交通省に宛てた要望書には、高度の極めて低い南風悪天運用での騒音被害が23時以降にまで及んだ事実が記載されています。しかもそれが24時を回るまで続いた事は、私の記憶にも残っています。

「南風悪天候 年間運用想定3%」といかにも滅多に起こり得ない“イレギュラー”な運用であるかの様な言い回しをしていますが、実際は穏やかな晴天時でも午前と夕方に運用される事が多く、結局のところ着陸便の混雑時にILSを利用して便数を捌いているのがその実態でしょう。

羽田空港の発着枠は今後更に増加しますから、益々「3%」とは程遠い数字になってくる事が予測されます。

“フィート”表示に騙されるな!

国土交通省や各自治体のHP等あらゆる場所では、航空機の高度が“フィート”で表示されています。

haneda-都心上空
日本人にとってあまり馴染みの無いft表示は、“メートル”よりも数字がその3倍以上と大きく、いかにも高い高度で跳んでいるかの様な錯覚に陥り易いでしょう。「1500ft以上」と表記されれば、それほど低い高度には感じ得ませんが、実際は455mで“スカイツリーの展望台の高さ”という極めて低い高度です。中には「m」を小さく併記している場合もありますが、少しでも大きな数字で住民の怒りを静めたい、という思惑が窺い知れます。

千葉県の騒音負担は深刻

おそらく、騒音下に暮らした事の無い人からすると「神経質だ」と思われる方もおられるでしょう。しかし航空機のもたらす低周波が人間の寿命を縮めるというデータも出ています。さらに、低周波は民家の壁への浸透率も高く、二重窓程度では防音効果はあまり期待できません。

千葉県の約1000mという高度の騒音ですら、3分おき(時にはそれ以下)の轟音に気が狂いそうになりますから、品川付近の455mというのは想像を絶します。

 羽田空港騒音被害

人口密集地域を避けた航路の徹底を切望

国家プロジェクトとはいえ、採算性を理由に市民生活を脅かすのは本末転倒ではないでしょうか?千葉県には民家の無い広大な土地が広がっていますし、東京湾隣接区域でも川幅1kmを誇る荒川など、空港にごく近い地域を除いては人の頭上を飛ばずに済む方法はあるでしょう。

それを上記の「南風悪天時の北ルート着陸便」の様に、規定のルートを外れてまで燃費優先のショートカットをする様な事は止めさせ、人口密集地を避けた航路の飛行を徹底してもらいたいものです。

まとめ

都心上空ルートの運用時において、

  • 15時~19時の運用時間が守られない可能性有り。
  • 運用ルートを外れた周辺地域にも騒音被害拡大の懸念有り。

特にここ近年はゲリラ豪雨発生の確率が高く、着陸のやり直しや着陸待ちの上空旋回等、天候を理由としたイレギュラーな飛行をする便が増えていますから、国交省の提示するルートのライン上から外れた地域でも注意が必要です。特に今後羽田空港の便数増加によって、着陸時に整列する飛行機の数も増えますから、ILSの列が埼玉県の富士見市やさいたま市の西部等にまで膨れ上がる事は容易に予測出来ます。

騒音に苦しむ市民が、その元凶となり得る観光客相手に、真の「おもてなし」など到底出来るものではありませんね。「豊かな国づくり」をもっと根幹から見直して頂きたいものです。