ラフマニノフ【ピアノソナタ第2番】の1931年版を聴いて思う事(エリザベート王妃国際コンクール2016)

エリザベート王妃国際コンクール2016のセミファイナル、昨夜は日本人コンテスタントの一人である今田篤さんが、22時から始まる部の2番目にモーツァルトのピアノコンチェルトを演奏されましたね。落ち着いたトーンの音色でありながらも、三楽章の終盤にかけて差し迫ってくる表現は、本当に見事です!

モーツァルトの音の表現は、本当に難しいと思います。あの時代特有の軽やかさを保ちながら音色を選んではめていく作業、その上でオケとの調和やホールの音響も考えなければなりませんから、神業ですよね。今田さんにどの様な評価が下されるか、注目していきたいと思います。

特徴的なラフマニノフ

さて、昨日の演奏で特に気になったのが、今田さんの後に弾いたRuoyu Huangさん。彼の≪ラフマニノフ/ピアノソナタ第2番≫の演奏が特に印象的でした。

第一印象としては、とにかく“遅い”“もっさり”です。二楽章なんて途中で止まってしまうのではないかと思うくらいでした。旋律のフレーズ感が消えてしまうのではないかと思っていましたが、聴き易さよりも表現の量で勝負したという事なのか、遅いテンポだからこそできる細やかな表現が印象的でした。

Ruoyu Huang (2)

ただ、彼の真意を理解せずに聴いていると、異様に強調する伴奏部や対旋律には最後まで馴染めません。審査対策なのか、奇を衒った表現を好んでするコンテスタントがいますが、それがどの様に受け止められるのか…、彼の審査結果にも注目したいと思います。

短縮バージョンの1931年版

ところでRuoyu Huangさんが演奏したラフマニノフのピアノソナタ第2番は、作曲者自身が後から改変して1931年に出版された“改訂版”で、1913年に出版された原曲とは異なります。

ラフマニノフ ピアノソナタ2番 (1)

元々1913年に出版された原曲があまりにも難しすぎるという事で、後から弾き易く改定されたというのは有名な話ですが、普段1913年版ばかりを聴いている自分にとって、久々に聴いた1931年番はなんだか気が抜けてしまった様な印象でした。

ラフマニノフ ピアノソナタ2番 (2)ラフマニノフ ピアノソナタ2番 (3)

確かに1913年版は、一楽章の展開部がこれでもかと言うくらいモチーフの反復が続きますし、一般的なソナタ形式の展開部としては長すぎる感じもしますが、その“しつこさ”こそこの曲の魅力だと思いますし、1931年版はあっけなく終わってしまいます。

ラフマニノフ ピアノソナタ2番 (4)ラフマニノフ ピアノソナタ2番 (5)

二楽章の冒頭テーマも、星屑を散りばめたかの様な美しさがあったのに、音数を減らした事によってその効果が半減してしまっています。三楽章なんて、明確な再現部すら無くなってしまいました。

Ruoyu Huang (1)

Ruoyu Huangさんの演奏に話を戻すと、この簡略化された1931年版だからこそスピード感と圧力でもって押し通すくらいの勢いが求められるのではないか、と個人的には思いました。その前の≪ショパン/舟歌≫を聴いていても同様の傾向が見られましたので、これらがどう評価されるのか楽しみです。