今日も街を歩くと、様々なクリスマス・ソングが聴こえてきます。山下達郎さんの《クリスマス・イブ》を初め、古くからのスタンダード・ナンバーも多く聴かれ、これほど素敵な和声を伴った音楽が街に溢れかえるのは、この時期だけかもしれませんね。
Frank Sinatraのクリスマス・ワルツ
さて、昨夜USENを聴いていた所、たまたま流れてきた《The Christmas Waltz》に心を奪われました。この曲は、数あるクリスマス・ナンバーの中で誰もが「どこかで聴いた事」はありながらも、Winter WonderlandやWhite Christmasの様に「曲名がすぐに出て来ない」という方も多いのではないでしょうか?
調べてみると、元々はアメリカの歌手Frank Sinatra(1915-1998)が歌う為に書かれた曲の様で、1954年にリリースされています。作曲はJule Styne(1905-1994)で、他にも《Let It Snow》など有名な作品でも知られている人物です。しかもWikipediaによると、歌手のFrank Sinatraは1915年の12/12生まれとの事ですから、なんと偶然にも今日が生誕100周年という事になりますね。
思わず即興で弾いてみましたが、心に染みる和声の連続で、とても素敵な曲だなと改めて実感しました。少し専門的な話になりますが、この曲に心が動かされる大きな要因の一つに、歌いやすく単純なメロディならがも、そのメロディに“テンションコード”が多く含まれている点があると思います。 テンションコードとは、基本の3和音(「ド・ミ・ソ」や「ファ・ラ・ド」など)の上に更に異なる音が重なった和音の事で、基本的なコードの音とは違った音を使用する事から「非和声音」とも呼ぶ事があります。この音が使われる事によって単純な和声の響きが色づけされて、より華やかな音、或いはより神秘的な曲想を表現できるなど、バリエーションに富んだ音楽を作る事が出来ます。
バッハやベートーヴェン等のバロック、古典派クラシック作品ではあまり使用されていませんでしたが、19世紀以降、特に20世紀初頭からは多くの作曲家が使用する様になった他、特にアメリカ発祥のJazzではこのテンションコードが“基本”となっており、インプロヴィゼーションのベースとなっています。 例えば、こちらは《The Christmas Waltz》の冒頭部分で、上段にメロディ、下段に基本となる3和音のコードを記載した楽譜ですが、この内2~4小節目を見ると、それぞれ3和音のコードとは異なる音からメロディが始まっていて、それが3和音の音へ解決している(3、4小節目)のが分かります。
この様に、躍動感のある非和声音を多用しながらも、基本コードの音へ自然な形で解決するというフレーズが、この曲のメロディの根幹となっており、それが歌いやすくも心躍る様な作風に仕上がっているのだと思います。
テンションコードの魅力
テンションコードは基本の3和音から外れた音である為、「不安定」な音として捉えられる事もありますが、逆にその不安定さこそが「躍動感」に繋がって、音楽を動かす原動力と成り得るのです。ドラムの激しいリズムや、アンプから大音量で流れてくるエレキギターの音などとは違った「音程」による躍動が、この曲の魅力の一つであるのだと思います。話が膨らみすぎてしまいましたが、この名曲を生み出して下さった故人たちに敬意を表しつつ、皆さんも素敵なクリスマス・ソングの1曲を見つけて頂ければと思います。